
AYA COURVOISIER exhibition
ものを選ぶという行為は、単に「見た目もよくて、使い勝手の良い便利な道具を手に入れる」ことにとどまりません。
私たちは作品の背後にある時間の集積や、作家がその手を動かしていた瞬間の気配、もっと言えば彼女たちの生きてきた記憶の断片を、無意識のうちに感じ取り、惹き寄せられているのではないでしょうか。
今回toitでご紹介するのは、陶芸作家 Aya Courvoisier(アヤ・クヴァジエ)さんの作品たちです。

10年間という人生の重要な季節をパリで過ごし、東京・世田谷にある築40年を超える静かな昭和のアパートメントにアトリエを構える彼女。

和室と洋室の境界を自然に溶け合わせながら、窓から差し込む光の移ろいとともに生み出される彼女の陶器は、一見すると洗練された凛とした美しさを纏っています。

しかし、その彫刻的造形の奥底にはまるで彼女のアトリエを訪れたときのような、揺るぎない人の温もりと静かなストーリーが息づいています。

memory as form
AYA Courvoisierさんの作品を紐解くうえで欠かせないのは、それらがすべて彼女自身の極めて個人的で愛おしい原体験や記憶から手繰り寄せられているという点です。
彼女のアイコンのひとつである「PERLE series」。

この美しい装飾は、お祖母様が大切にしていたヴィンテージのネックレスから着想を得て生まれました。表面に並ぶ無数の小さな粒は、型取りやスタンプによって効率的に複製されたものではありません。彼女の手によって、一粒一粒、粘土の塊から指先で丸められ、膨大な時間をかけて器の表面へと貼り付けられていきます。
気が遠くなるような途方もない手仕事の積み重ね。それは単なる装飾を超えて、失われつつある記憶や時間を、土という物質の上に一粒ずつ留めていく作業のようにも見えます。

また、「DANCE」と名付けられたシリーズは、彼女が幼少期に身にまとっていたバレエのチュールドレスのゆらめきが原点です。身体の動きに合わせて空気を孕み、重なり合い、柔らかくひるがえるシフォンの美しさ。本来は重く硬い素材であるはずの陶土を用いて、軽やかな可憐さと芯のある凛とした優美さを同居させるフォルムは、見る角度や光の入り方によって一瞬ごとにその表情を変えていきます。

organic contours
彼女の作品が放つ独特の存在感の魅力の一つとして「たたら成形」や「手びねり」という成形技法があります。
回転軸を中心として完璧な正円や均一な薄さを作り出す「ろくろ成形」とは異なり、粘土を板状にスライスして組み立てていく「たたら成形」や、指先で少しずつ土を押し広げ形を立ち上げていく「手びねり」は、土そのものの抵抗や密度のムラ、微妙な厚みの揺らぎをダイレクトに作品へ残します。
一見すると完璧に美しく整えられた幾何学的なシルエットでありながら、光を浴びたときに繊細な陰影が立ち上がるのは、この手仕事の揺らぎがあるからこそ。
完璧な工業製品の均一さは、時として空間のなかで冷たさや緊張感を生んでしまいますが、彼女の作品が持つかすかな歪みや陰影は、静寂でありながらも、どこか人の手の温もりを感じさせる佇まいを空間にもたらしてくれます。
それは、パリでの暮らしや世田谷の古いアトリエで彼女が愛してきた、「人が過ごした時間の気配」や「古さの持つ懐かしさ」とも深く共鳴しています。
textures of silence
彼女が描く世界観において「色」と「テクスチャー(質感)」もまた、彼女の表現する世界観の大事な要素の一つです。
彼女の定番であるホワイトは、落ち着いた深みを持つアイボリーホワイト。
冷たさを削ぎ落とし、空間の光を柔らかく受け止めるその色は、飾る場所の空気感を静かに整えてくれます。
さらに特筆してご紹介したいのは、花器(フラワーベース)におけるテクスチャーのバリエーション。
器のシルエットや造形に合わせて、表面の質感を緻密に変化させているのも彼女の作品の大きな魅力のひとつです。



これらの花器は、ただそこにあるだけで彫刻作品のような凛とした佇まいを放ちます。造形そのものが完成されているため、華やかな花束を活ける必要はありません。庭の片隅で摘んできたような草花や、季節の一輪をそっと挿すだけで、空間の余白が見事に完成するのです。
和の器としても、洋の空間のオブジェとしても自然に溶け込むのは、パリと日本という2つの異なるカルチャーの間で自由な感性を育んできたAya Courvoisierさんだからこそ表現できる、現代的な美意識と言えます。

lingering warmth
&Premium(2024年3月号)のインタビューのなかで、彼女は印象的な言葉を残しています。
自身の家に置かれているものの多くは、試作品や一度割れてしまったものを修繕した失敗作であり、それらを何より愛おしく使っているのだと。

完璧に整えられたものだけを良しとするのではなく、時間に揉まれた跡や、途中で生まれた不完全さのなかにこそ固有の「物語」を見出す姿勢。
一見するとどこまでもシックで都会的な作品の根底には、そのような生身の人間らしい優しさと愛着の眼差しが流れています。
職人としてのストイックさと、日常を慈しむ柔らかさ。その双方が交差する場所で作られているからこそ、彼女の作品は私たちの日常に優しく寄り添ってくれるのかもしれません。

日常のなかに静かな光と影を差し込んでくれる、AYA Courvoisierさんの陶器たち。
店頭やオンラインで、その質感、手触り、そして一粒一粒に込められた途方もない手仕事の気配を、ぜひ直接感じていただけたら嬉しいです。

AYA Courvoisier exhibition
8/7 – 8/16 オンライン販売は 8/9 16:00より toit online store にてスタート。


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